新型コロナウイルスのワクチン接種が 今年の住宅不動産市場に及ぼす

新型コロナウイルスの感染は昨年の2月ごろから急速に広がり、世界的なパンデミックになりました。感染防止対策として発令された自宅待機やロックダウンなどの影響による休業や失業などが米国経済に及ぼした影響は、戦後最大の規模になりました。住宅不動産市場も、当初は過去最低の数字を記録しました。売り手が新型コロナウイルスの感染拡大の影響から成り行きを見守り静観する中、買い手は史上最低の金利を利用しようと住宅市場に殺到し、買い手によるオファー競争が住宅価格を引き上げた結果、住宅不動産市場は見事にV字回復しました。リセッションという懸念は、あっという間にかき消されたのが2020年でした。
そして現在は、新型コロナウイルスのワクチンがFDAに承認されて、ワクチン接種が始まりました。体温計で熱がないかを確認するように、買い手も売り手も市場の様子を見守っています。住宅価格は値下がりするのか? もっと多くの住宅が市場に出てくるのだろうか?
ワクチン接種が始まったからといって、問題のすべてが解決される訳ではありません。消費者の多くは、「いつ、どのようにすれば、ワクチン接種を受けられるのか」「ウイルスの変異株にも効き目があるのか」など、様々な不安を抱えているでしょう。たくさんの人がワクチンを摂取できたとしても、COVID-19以前の状況に戻れることはないでしょう。
不動産物件情報検索サイトの最大手、リアルタードットコムのチーフエコノミストであるダニエル・ヘール(Danielle Hale)女史は、「住宅不動産は昨年同様にホットなマーケットであることに変わりはないが、今年はもう少し落ち着いた状態を取り戻すのではないだろうか」と予想しています。

販売物件は増えても、オファー競争は続く

良いニュースは、新規の販売物件がこれから市場に出てくることです。現在のように在庫数が少ない状況では、買い手がデューデリジェンス項目(物件の瑕疵を確認する専門家による調査)を外してオファーを提出することがありますが、今後はそのようなことは減少していくでしょう。
しかし、それは一日では起きません。
売り手の中には、ワクチン接種が開始されたことで、安心して物件をリスティングされる方もいるでしょうし、接種状況を見極めてから物件を販売しようと考える方もいるでしょう。そうなると、上半期よりも下半期に在庫数が増加する可能性が大きく、もしかすると、今年の終わり頃から2022年の春頃になることもありえます。
特に引退した、あるいは引退間近のベビーブーマー世代に、その傾向が強いようです。販売物件には、オープンハウスに不特定多数の内見客が訪れるため、新型コロナウイルスの感染を避けたいという思いがあるようです。ヘール女史は「この世代の売り手は、今後ワクチン接種が広がれば、安心して行動できるのではないか」と述べています。
2020年のパンデミック禍と同様、今年もホームビルダーが新規住宅の建設を推し進めていくようです。
「今年から来年にかけて、新規の戸建てやタウンハウスなど100万戸以上の建設が進む。特に、戸建て住宅の供給は増えるだろう」と、全米ホームビルダー協会(NAHB:National Association of Home Builders)のチーフエコノミストであるロバート・ディーズ(Robert Dietz)氏は展望しています。

物件価格は値下がりせず、緩やかに上昇

物件の販売数が増えると、価格が下落すると思われるかもしれませんが、価格は下がりません。また、昨年の12月には前年同月比で13.4%上昇しましたが、今年はそのような状況にはならず、価格は緩やかに上昇する傾向にあることを最新のリアルタードットコムのデータは示しています。販売物件の増加は過熱している住宅市場を冷却することになり、1つの販売物件に対して複数のオファーが競争している状況を解消し、買い手の選択肢が増え、通常の状況に戻ることを意味します。
オンライン不動産情報データサイトの大手、コアロジック(CoreLogic)社のチーフエコノミストであるフランク・ノーサフト(Frank Nothaft)氏は、「この数ヶ月の急激な価格上昇は収まり、価格上昇のスピードもスローダウンする」と分析しています。
しかし需要が多いことに変わりはなく、上昇スピードは鈍化しても価格上昇は続きます。エコノミストによる違いはありますが、年間2%から6%の上昇を予測しています。
経済が回復し、屋外でのソーシャルディスタンシングが解除されれば、新規雇用なども促進し、生活は安定するでしょう。そうなれば、マイホームの購入や住宅の買換えなどの潜在的な需要も増えていくでしょう。
職を失わずに済んだ人の多くは、繰り返されたロックダウンの影響で、バケーションや外食に出かけることができませんでした。そういう意味では、マイホームの購入や買換えの頭金を準備することができる状況でした。その上、一次取得者層の予備軍が控えています。彼らはミレニアル世代と呼ばれ、前の世代より人口が多く、やがて結婚してマイホームを購入する層です。
「それらを考慮すると、需要は計り知れない。彼ら一次取得者層とジェネレーションXと呼ばれる世代が、住宅の買換えをする時期に来ている」とノーサフト氏は指摘しています。

住宅金利は上昇する可能性

買い手にとって最大のマイナス点は、住宅金利のレート(mortgage interest rate)が昨年より高くなることでしょう。2020年はパンデミックの影響もあり、史上最低の金利レートでした。FRB(米連邦準備制度理事会)は「低金利を保つ」と言っていますが、今後、ワクチン接種の広がりなどで経済が好転し雇用が促進され、消費が戻れば、今年の後半から年末にかけて金利が上昇する可能性は大きいのです。
昨年の超低金利は、住宅価格が高騰した中で大きな安全弁でした。物件価格は上昇しましたが、超低金利のおかげで毎月の支払いをなんとかできたのです。フレディマック(Freddie Mac:連邦住宅貸付抵当公社)の発表では、1月7日時点で30年ものの固定金利は平均2.65%でした。
金利が上昇すると、住宅購買指数にも変化が起きます。今年に関しては、FRBは「金利はほぼ変わらない」と発言しています
が、エコノミストは「3%前後に上昇する」と予想しています。
ポジティブに考えると、金利の若干の上昇と販売物件数の増加、つまり在庫数の増加は価格上昇を抑えることになります。少なくとも、エリアの異常な価格上昇を緩和する効果は期待できます。

大都市の華やかなライフスタイルは蘇るか

在庫不足だった住宅市場では、パンデミックにより米国のほとんどの地域で住宅価格が上昇し、特に大都市や高級住宅地区ではそれが顕著でした。これまでは、「ロケーション第一」「資産」だと狭いスペースに高額な家賃や金利を払っていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウンにより、天地がひっくり返ったようにほとんどの大都市では外食や文化的な生活やナイトライフなど、今まで大切にしてきたライフスタイルが完全に消滅しました。
さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大により、高層ビルのコンドミニアムの生活──コモンエリアと呼ばれるロビーやエレベーター、プール、ジャクージ、ランドリールーム(1970年代に建てられたビルには存在しますが、現在のビルは各ユニット内に設置されています)などを他人と共有すること──が感染拡大につながるのではないかという不安が広がりました。リモートワークをしている人たちの中で資金に余裕のある人やローンを組める人の多くは、混雑する高層ビルから、スペースがありプライバシーが保てる郊外の広々とした戸建てに移住しました。
それにより、米国のいくつかの大都市では住宅価格が値下がりし、2008年のグレートリセッション以来の下落になりました。そしてワクチンの認可と接種が始まったことで、今まで住宅を購入できなかった層や若い世代が動き出し、大都会の生活は人気を取り戻しつつあります。
このようなことは、前にもありました。米国で「ナイン・イレブン」と呼ばれる、9・11の時です。あの時は多くのニューヨーカーが郊外へ移住し、ニューヨークが元の人口に戻るまでに3年かかりました。
パンデミックにより、マンハッタンの住宅価格は前年比で22%下落しました。そのため、賃料の値引きや賃料を数ヶ月分無料にするなどの特典をつけて、賃借人を呼び込んでいました。しかしワクチン接種が始まったことで、長いトンネルの先に明かりが見えたのか、人々はニューヨークのナイトライフ、レストランでの食事、スポーツ観戦やライブコンサート、美術館や博物館巡りなどの文化的なライフスタイルを求めています。大都会は、子育て世代よりも、20代後半のこれからキャリアを築いていくミレニアル世代やジェネレーションZ世代にとって興味を掻き立てる場所なのかもしれません。
「都市とは、ただ働く場所というだけでなく、人との繋がりやコミュニケーションを持つ場所でもある」と前述のヘール女史は語っています。

郊外は魅力を持ち続けられるか?

子供を持つ家庭は、都心に戻る可能性が低いのではないでしょうか。同じ価格なら郊外の方が大きなスペースを確保でき、リモートワークを可能にするホームオフィス、子供達が遊べる庭、教育に良い学校区などが揃っているからです。それらの環境があるため、パンデミック禍では郊外が注目を集めてきました。ズームなどのテクノロジーのおかげで、リモートワークも可能になりました。この状況は、しばらくは続くでしょう。職種や企業によっては、リモートワークは継続するでしょう。雇い主の多くは、ワクチン接種が広がっても、オフィス労働者に以前のような通勤や出勤を強いることはないでしょう。出勤より、どこにいても仕事をこなすことが優先されるでしょう。週に何日かの出勤、あるいは分散したサテライトオフィスへの出勤が増えるでしょう。もし、〝リモートワークがすべて〟にならなければ。リモートワークが浸透すれば郊外へ移る人が増えて、住宅の選択肢も増えて、購入しやすい住宅環境が求められるでしょう。勤務形態が平日の5日すべて出勤ではなく、週に1~2日ならば、通勤時間の長さも気にならないかもしれません。
全米リアルター協会(NAR)のチーフエコノミストであるDr.ローレンス・ユン(Dr. Lawrence Yun)氏は、「現在のパンデミック禍では、都心のコンドミニアムより郊外の戸建ての方が明らかに好まれている。郊外よりもさらに都心から遠くの、人から離れた場所を選ぶ人もいる」と述べています。

今年のトレンド〝大きいことは良いことだ

不動産のトレンドは、従来の「ロケーション、ロケーション、ロケーション」から今年は「大きいことは良いことだ」に変わるでしょう。
住宅のポピュラリティーコンテスト(人気賞)を実施したら、文句なく「隣とは壁で仕切られていない戸建て」が選ばれるでしょう。従来から住宅不動産の主役であった戸建て住宅の需要は多く、今後はより大きな家が求められるでしょう。そして、リモートワークが今後も続くようであれば、ホームオフィスを1~2か所設置できるスペースが戸建て物件に求められるでしょう。
「パンデミック禍の体験は、そうたやすく忘れられるものではない」と前述のノーサフト氏は述べ、「ソーシャルディスタンシングで体験した人との距離感は、〝隣の住宅との距離〟に連鎖するだろう」と指摘しています。
広いスペースという課題は、新たなトレンドとして新規住宅の建築にも取り入れられています。ここ数年、ダウンタウンや都心の住宅は小型化してきましたが、パンデミックの影響を受けて、郊外の大きくて広いサイズの住宅にトレンドが変化しています。
国勢調査によると、2020年第3四半期の新築戸建ての広さの中間値は2,274/sq.ft(211.26 ㎡)で、前年の2,262/sq.ft(210.15 ㎡)よりも広くなりました。
マイホームの大型化は、ニューノーマルとして当分の間定着するでしょう。

情報提供
会社名:Hawaii 5-0 Properties, Inc. (ハワイ・ファイブオー・プロパティーズインク)
連絡先:三澤剛史 (Takashi Misawa)
お問い合わせメール:takashi@hi50group.comtakashimisawa@mac.com
電話番号:(808)679-1448, +1-808-679-1448
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