パンデミック以来、アメリカ人の多くは、家族や友達との距離が近い場所へ移りたいという気持ちが大きくなったようです。またアメリカ人の多くは、今よりも大きく広い住宅へ移りたいと思っているようです。それについては、全米リアルター協会(NAR:National Association of REALTORS)が発行した年次調査レポート「2021年住宅バイヤー&セラーのプロフィール(2021 Profile of HomeBuyers and Sellers)」で詳しく紹介されています。
レポートによると、買い手の18%は「購入する住宅は家族、親戚や友人の近くにしたい」と望んでおり、買い換え層の17%は「今よりも大きな家の購入」を希望しています。
パンデミック以前の2019年までは、消費者は一番の購入条件として「職住近接や購入のしやすさ」を挙げていました。しかし昨年の3月以降、住宅購入に関する条件は大きく変化しました。NARの統計&行動心理部門のヴァイスプレジデントであるジェシカ・ラウツ女史は、「特に、今までの核家族とは反対になる「家族の絆」を再認識するようになり、「近い場所に移りたい」と望み、「リモートワークや三密を防ぐ意味で、郊外の大きな住宅に移りたい」という希望が増えた」と述べています
このレポートから読み取れる消費者の行動心理の変化は、下記の通りです。
1マイホームの保有年数は短縮したが、購入後は移動しない
おそらく、パンデミックの影響が大きいと思われます。しかし歴史を振り返ると、グレートリセッション(Great Recession)より前の住宅保有年数は平均6~7年でした。その後は、9~10年ごとに変化しています。今回のパンデミック禍では、8年でした。NARが統計を始めてから、1年での変化が一番大きくなりました。
またミレニアル世代を中心とした一次取得者層は、購入するマイホームは従来の“スタートアップの仮住まい”という位置付けではなく、長く保有したいと考えています。
買い手の多くは「購入するマイホームは長く保有する」と回答し、その中間値は12年でした。また、回答者の18%は「移動しない」と答えました。現在の在庫数不足は、定年退職後にマイホームのダウンサイジングをするはずだったベービーブーマー世代の4分の1が、マイホームを売却せずに住み続けていることにも原因があります。前述のラウツ女史は、「歴史的に見て、売り手は出産、結婚、離婚、就職など、人生の様々な局面で住宅の買い替えをしてきた。しかしこのパンデミックは、アメリカのあらゆる人たちに影響を与え、結果的に多くの人が売却や買い換え、購入に踏み切った」と述べています。
2.売却金額は高いが購入金額も高い
ここ数ヶ月だけでも、売り手は価格上昇により大きな含み益を得て、売却しています。昨年の典型的な例は、物件を販売してからほぼ1週間で成約しました。今年の典型的な例は、買い手は販売価格の100%、つまり満額で購入しています。これは、前回の住宅ブーム(2002年)以来の出来事です。販売住宅の29%は、販売価格以上で成約しました。売り手は、中間値として購入金額よりも85,000ドルものエクイティー(equity:含み益)を得ています。
3.夫婦 (married Buyers) の購入比率は減少
買換え層の60%は結婚している夫婦です。この比率は、1985年に記録した81%から年々減少しています。一方、独身女性の購入比率は2014年の15%から19%に増加しました。独身男性と未婚のカップルの比率はともに9%で、変わりませんでした。パンデミック禍で最も大きな変化は、ミレニアル世代が友人やルームメートと共同で購入する比率が上昇したことです。
4.一次取得者層の購入は厳しい状況
一次取得者層の購入比率は、昨年の31%から34%に増加し、これは2017年以来の増加率です。米国の住宅ローン金利は史上最低を記録していますが、在庫数不足の状況では、住宅価格の高騰および買い手の購入競争が激しく、一次取得者層の購入は難しさを増しています。ラウツ女史は、「現況では、多くの買い手は住宅を持っていないので、価格が上昇した自宅を売却してエクイティーを得ることができず、頭金などに必要な現金を用意できない。さらに、現在居住しているアパートの家賃の上昇や学生ローンの支払いなどで、頭金(ダウンペイメント:down payment)の準備がとても困難になっている」と解説しています。一次取得者層の28%は、「家族や友人から頭金に当たる部分を「寄付」してもらったり、「ローン」として借り入れて用意する」と回答しています。また、全体の29%は「マイホームの購入で最も難しかったことは、頭金の準備だった」と回答しています。