日本においても米国においても、不動産売買では、不動産取引業者の選び方や付き合い方が非常に大切になります。
不動産は非常に高額な買い物であるうえに、ひとつとして同じものがないといわれるほど、立地、間取り、建築方法、日当たり、周辺環境、広さなどによって個性が様々です。
また、動産と違い、購入後に所有権保存登記や移転登記など、専門的な登記手続きが必要になることも特徴です。これらの不動産の特性から、日本でも米国でも、不動産取引のプロフェッショナルである不動産取引事業者を仲介として、取引が行われることがほとんどといえます。
この記事では、ハワイ州をはじめとする、アメリカ合衆国における不動産エージェントの特徴、選び方、付き合い方などについてご説明いたします。
目次
エージェントの役割
エージェントとは日本語で代理人といいますが、その名のとおり、ハワイ州での売主買主の不動産取引に関する行為を代理して行うことが主たる役割です。
売主と買主双方にエージェントが専属で付き、売主のエージェントをListing AgentまたはSeller’s Agentといいます。
米国の不動産取引では、売り物件は、全米リアルター協会(NAR)のMLS(Multiple Listing Service)という物件情報のデータベースに登録されて販売されます。
データベースに物件をListingするので、Listing Agentと呼ぶというわけです。
一方、買主のエージェントはBuyer’s Agentといいます。
日本の不動産取引では、両手取引といって、買主のエージェントと売主のエージェント、どちらも一つの事業者が行うことがありますが、米国ではそういうことがなく、別々のエージェントがつきます。
利益相反の心配がないので、売主にとっても買主にとってもメリットですね。
MLSについて、もう少し詳しく説明します。
MLSは平たくいうと、日本の不動産会社が利用する「レインズ(※)」のアメリカ版です。
ただし、情報量やデータベースの使いやすさは、比にならないほどMLSのほうが優れています。
※レインズとは(外部サイトに移動します)
レインズと同様、物件の価格、間取りや広さ、写真などの基礎情報が登録されていることはもちろん、物件の登記情報、その物件の過去の販売についての取引履歴、災害リスクなども詳細に登録されています。
日本人の新築好きは世界でも類をみないといわれますが、米国ではきちんと建築維持管理されていた中古物件については、あまり不動産価値が下がらず市場に流通するので、過去の取引は検討にあたり、非常に重要であるとみなされます。
MLSには基本的にすべての売り物件が登録されます。
不動産業者はすべての取扱い物件を知ってから、原則24時間以内にMLSに登録することを義務付けられています。もし登録を怠った場合は、厳しい罰則が課せられ、罰金、場合によっては免許停止や取り消しもありえます。
こういった制度のため、MLSは不動産データベースとして、網羅性(もうらせい)が非常に高く、物件情報が徹底的にオープンにされるシステムとなっていて、不動産事業者が物件情報を囲い込んで、値段操作をすることはできないので、不動産取引の透明性は高いといえるでしょう。
MLSの一部には、日本のレインズ同様、不動産事業者などのプロしか閲覧できないものもありますが、このようにオープンな取引システムであるため、不動産事業者から消費者への情報開示のウェブサイトなどもかなり整備されています。
物件情報がオープンであり、消費者も十分に情報にアクセスできる米国不動産取引業界において、エージェントに期待される役割は、購入や売却の意思決定に至るまでのプロならではの提案力、コンサルティング力、アドバイス力、そして相手方との実際の交渉力です。
買主のエージェントは、依頼人が購入を検討している物件を不動産のプロフェッショナルとしての観点から精査し、リスク情報やメリット、デメリットを分析してアドバイスし、依頼人が後悔しない取引ができるように努めます。
また、実際に売主との交渉が始まれば、購入価格や移転時期などの条件交渉を行い、物件のインスペクションを行い、売主から物件について開示を受けたディスクロージャー情報を分析して、買主側の立場で交渉を実施、クロージングまで導きます。
一方、売主のエージェントは、物件をMLSに登録し、広告宣伝活動を代行し、買主側のエージェントとの交渉も代行します。
売主側のエージェントに期待される役割は、いかに迅速かつ正確に、高い値段で物件を売却できるかという交渉力です。
よいエージェントの見つけ方
ハワイ州をはじめとする不動産取引において、売買交渉やアドバイスを行うエージェントは、非常に重要な存在です。
より良いエージェントを選ぶことが、不動産取引の成否を左右するといっても過言ではありません。
ハワイの不動産会社のサイトを見ると、それぞれのエージェントが、宣材写真のように写真館で撮影してもらったポートレートに、自分の学歴やバックグラウンドを掲載していることがあります。
日本の不動産会社で、一社員がこのような自己PRを会社のウェブサイトに乗せているケースはあまりありませんね。
こういったことからもわかるように、不動産のエージェントは従業員ではなく、個人事業主として不動産会社と契約をしています。そのため、収入も給与収入からではなく、フルコミッション(完全報酬制度)で歩合制で、売り上げを不動産会社とレベニューシェアで分け合うことが多いのです。
交渉スキルや提案力は、個人差がかなりでるソフトスキルですので、腕がよいエージェントは、争奪戦になります。そのため、レベニューシェアのレートも高くとることが多いです。
良いエージェントの定義ですが、高額な取引をお任せするのですからまず、心から信頼できる人であることが必要です。
日本から米国の不動産取引をする場合は、時差もありますし、文化も言葉も違いますので、そのエージェントを信頼して任せられるかどうかで不安感はまったく違うと思います。
そのため、やはり実際に何人か会ってみて、フィーリングを確かめることをおすすめします。
会ってみるエージェントの候補ですが、信頼できる知人からの紹介があれば、それはとてもラッキーです。相手もすでに取引先の知人ですので、恥ずかしくない振る舞いをしようと心がけるでしょうし、知人におすすめできるレベルということが事前にわかっているからです。
伝手がない場合は、不動産会社によっては、インターネット上で無料の不動産関連セミナーを開催していたり、書籍を出していたりすることがありますので、そういった情報を利用して、いくつか目星をつけて会ってみるという方法も効率的でしょう。
もうひとつ、重要なポイントは、日本語対応をしてもらえるかどうかということです。
帰国子女や駐在経験が長く、言語リテラシーにまったく不自由でないという方は、この限りではありませんが、少し自信がない場合は、日本語対応してもらえるエージェントのほうが、コミュニケーションにストレスがないでしょう。
ハワイは日本との付き合いも長く、日系移民も多くいらっしゃいます。また、日本人投資家にハワイは人気ですので、日本語が話せるエージェントもかなりいます。
不動産エージェントの手数料について
売主側のみが不動産エージェントに手数料を支払います。
取引価格の6%程度で、売主側エージェントは、これを買主側エージェントに半分程度シェアをします。
買主側はまったく手数料を払わなくてよいということで、お得にみえるかもしれません。
日本の不動産会社への売買手数料は、売主側3%、買主側3%で、売主買主がそれぞれ自分の事業者に支払うので、米国のそれはユニークにみえますね。
米国では、中古物件市場も非常に成熟しており、日本と違って優良な中古物件は、新築と比べて大きく価格が下がるということもありませんので、一生のうちに何度も不動産売買を繰り替えすことが一般的です。
今回は売主だとしても、次回は買主になりえるので、お互い様という感覚があるのかもしれません。
なお、買主は、契約交渉中に、ホームインスペクターなど、不動産会社やエージェントとは、別の事業者にインスペクション代を支払っているので、費用がまったくかからないということではありませんのでご注意ください。
不動産エージェントとの付き合い方(購入前・購入後)
不動産エージェントとの付き合い方ですが、誠実な対応を心掛ければ特別な準備はありません。
日本人投資家にとって、現地の不動産エージェントは、一人では知りえない現地情報や、初めての取引の場合は日本とは全く違うアメリカの不動産取引過程を教えてくれる貴重な存在です。
ぜひ良好なコミュニケーションをとって、ご自身の心強い味方にしてしまいましょう。
購入前の付き合い方は、複数のエージェントを比較検討しつつ、あまり品定め感をしているような態度はとらないことが必要です。また、購入前には、自分の希望や条件を遠慮なくすべて伝えるようにしましょう。
日本人よりも阿吽(あうん)の呼吸という文化はありませんので、きちんとリクエストをしないと、伝わらない可能性があります。購入後もよい物件があれば教えてくださいと伝えて、引き続き関係を良好に保ちましょう。
不動産投資の収益のあげかたとしては、キャピタルゲインとインカムゲインがあります。
ハワイ州は緩やかに物件価格が上昇しているので、適正価格で購入し、適正な時期に売却すれば、保有していた期間のインカムゲインに加えて、売却によるキャピタルゲインをあげることも夢ではありません。
また、買い増しを検討する場合は、良い物件を継続的に教えてもらうことで、ご自身の目も肥えていきますのでおすすめです。
エージェントの仕事内容全般
米国の不動産業界では、分業化が徹底しています。そのため、セールスパーソンやブローカーが、賃貸物件の管理と不動産鑑定の両方を担当するという兼業状態はあまりみられません。
買主側のエージェントとしては、見込み客の相談をきく、アドバイスをする、MLSで希望にあう物件情報を探す、見つけた物件を買主が訪問するのに同行し、実際の物件の状態を踏まえてのアドバイスをする、売主側エージェントとのコンタクト・折衝などが主な業務です。
売主側のエージェントとしては、売主とコンサルテーションを行い、売却条件をヒアリングする、MLSに登録する資料を作成する、物件のプロモーション材料を制作する、視察にきた買主と買主側エージェントに物件を案内して説明する、買主側エージェントとのコンタクト・折衝などを行います。
どちらのエージェントも人と会ったり、電話したり、とにかくコミュニケーションをとる機会が多いですので、朗らかで人と接することが好きな方が多いといえます。
そのほかには、見込み客開拓のために、セミナーなどの講師をつとめたりするエージェントや会社もあります。個人事業主であるエージェントは、自己責任で売り上げをあげるために、それぞれが最適だと思う営業努力を重ねています。
米国の不動産取引事業者であるエージェントとは
米国の不動産取引事業者は政府のライセンスを取得する必要がある
アメリカ合衆国で事業者として不動産取引を行うためには、不動産免許を受けなければなりません。
不動産免許は2種類にわけられ、ひとつは不動産セールスライセンス(Real Estate Sales License)といわれるライセンスで、もうひとつが不動産ブローカー(Real Estate Broker License)といわれるライセンスです。
試験を受けて、不動産セールスライセンスを取得した個人は、まず不動産ブローカー(Real Estate Broker License)ライセンスをもつ企業や事業主に就職して、不動産エージェントとなる必要があります。
つまり、試験に合格しただけでは、まだ実務経験がないので、取引の安全のために単独では不動産売買を行うことは許されないということです。取引の安全のために、単独では不動産売買を行うことを許さず、きちんと地盤が確立されて実務経験がある諸先輩のもとで学びやフォローをえながら事業をさせるというアメリカ合衆国の国策を感じさせます。
不動産を売買しようとする消費者の観点から見ると、非常に安心な制度であるとはいえます。
なお、不動産エージェントは不動産ブローカーのもとで3年間実務経験をつめば、自身も不動産ブローカーライセンスを取得できるので、独立開業することか出来ます。
日本での不動産事業許認可との違い
アメリカの不動産事業ライセンス制度と日本とのそれを比較するとどうでしょうか。
日本の不動産取引事業にも国家資格はあります。宅地建物取引士資格試験、通称「宅建試験」です。
不動産売買契約をする際に、買主への重要事項説明などは、資格をもった宅建士しか行えないことと、不動産事業者は従業員の5人に1人は宅建士を採用して、各事業所に配置しなくてはならないことから、日本で事業者として、不動産取引を行うにあたっては、必須の資格であるともいえます。
しかし、米国と比べると、試験に合格し宅建士登録を済ませれば、実務経験がなくてもいきなり不動産取引事業を開始できるという点と、上記の裏をかえせば、不動産事業者の従業員のうち、5人に4人は無資格者だったとしても、不動産取引事業が出来るということですので、規制は緩いといえるでしょう。
米国は国土も日本とは比べ物にならないほど広く、かつ各州に自治が認められており、人種も多種多様です。
また、訴訟国家といわれる国民性もあることから、日本よりも厳しい制度設計になっているのかもしれません。
不動産セールスライセンスの試験内容
不動産セールスライセンスは、州ごとに発行されることになります。
ハワイ州をはじめ、各州が試験を実施し、免許を交付しますので、免許は州内でのみ有効になります。
つまり、ハワイ州で免許を取得していなければ、他の州の不動産事業者は、ハワイでの不動産取引市場に参戦することはできません。逆もしかりですので、ハワイ州で免許をもっているからといって、他の州で不動産取引は、できないということになります。
受験資格も州によって異なりますが、ハワイ州の不動産免許試験の受験要件としては、まず、合衆国政府にオフィシャルに認定を受けている学校の教育プログラムを60時間受講し、学校が実施する卒業試験に合格する必要があります。
また、成人(18歳以上)で、ソーシャルセキュリティナンバーを有している米国市民、または就労ビザであるグリーンカードを保有している必要があります。
ちなみに、ソーシャルセキュリティナンバーとは、社会保障法(the Social Security Act)205条C2に記載された市民・永住者・外国人就労者に対して発行される9桁の番号をいいます。
日本のマイナンバー制度は、ソーシャルセキュリティナンバーをモデルに制度設計されたともいわれており、課税や社会福祉の観点から、全国民に付与されるものです。
グリーンカードは、米国に永久に居住することができるビザです。このビザをもって入国すると、入国の時点で基本的に米国永住者の資格を得ることができるということになります。
不動産セールスライセンスをとるためには、米国で市民として勤労、納税し、生活を拠点にしているという、しっかりとした米国における基盤が必要ということです。
高額かつ国土の一部でもある不動産取引について、アメリカ政府が重要視をしていることがイメージできると思います。
学校の卒業試験に合格すると、いよいよハワイ州が実施する不動産免許試験を受けることになります。
試験は連邦法と州法の両方から出題されます。
Uniformという連邦法についての問題が80問(制限時間150分)とハワイ州法についての問題が50問(制限時間90分)、4つの選択肢から1つを選択するマルティプルチョイス方式で出題されます。
ほぼ毎日のように試験が実施されること、受験料は68USドルとリーズナブルであること、オンラインでの申込みができること、合格発表が試験終了後、会場で即日発表されるということを考えると、受験要件をクリアすれば、試験自体はアメリカらしく、合理的かつチャレンジしやすい試験であるともいえますね。
試験に合格すると、合格証書が付与されますので、PVL Licensing Branch Commerce and Consumer Affairsに対して、合格証書、前述の学校プログラムの終了証書、申請料$285(奇数年について)、または$199(偶数年について)を添えて申請します。
これで、晴れてハワイ州の不動産セールス免許取得となります。
前述のように、不動産のエージェントは、まずは不動産ブローカーのもとで、勤務をして実務経験をつむことになります。
ホノルル不動産協会
不動産エージェントや不動産ブローカーは、ほとんどの場合不動産協会に加入します。ハワイのメジャーな不動産協会として、ホノルル不動産協会が挙げられます。
加入しなくても開業することは可能なので、加入が必須というわけではないのですが、きちんと事業を営んでいる不動産エージェントや不動産ブローカーは、ほとんど加入していますので、購入者の立場からは、不動産協会に加盟していないエージェントをあえて選ぶメリットはないと思います。
なぜほとんどの不動産エージェントが不動産協会に加入するのか、その理由としては下記のようなものが挙げられます。
- ホノルル不動産協会の不動産データベースにアクセスできるから
- 協会のメンバーでいるためには協会が定める不動産エージェントとしての倫理規程を遵守する義務があるため
- 顧客からきちんとした事業者であると信頼してもらいやすいから
- 情報の入手や研修などのサポートが充実しているから
エージェントに関する疑問まとめ
最後によくある質問とその回答を記載しておきます。
この記事が、信頼ができる不動産エージェント探しの一助になれば大変幸いです。
Q)エージェントを使わないでも売買できるの?
可能です。ただし、ほとんどの場合はエージェントを使っていますし、特に日本から遠隔取引をする場合は、事実上必須ともいえます。
データベースを含む情報へのアクセス、インターネット上にはあらわれない物件の事情や現地事情などや、日本とは異なる契約プロセスについては、プロのサポートが必要です。特に、買主側は不動産エージェントに対する報酬を払う必要がないので、無料でこのようなメリットが受けられる機会は、有効に活用したほうが良いと思われます。
Q)選んだエージェントとうまくいかない。どうしたらいい?
うまくいかない原因を分析してみましょう。コミュニケーション方法を変えたり、ご自分で工夫の余地があれば、改善してみましょう。それでも信頼がおけない場合は、変更もありです。エージェントとの契約で最低利用期間などを決めていなければ、解約して新しいエージェントを探してみましょう。