憧れの場所に不動産を持つことは、非常に喜ばしいこと。
大事な資産だからこそ、所有者が亡くなった場合の準備を生前から進めておく必要があるのです。
本記事では、海外不動産だからこそ気をつけたい、ハワイでの生存信託システムについて説明してきます。
目次
所有者が亡くなってしまった場合の手続き
不動産を所有している方が亡くなった場合、手続きは以下の通りに行われます。
日本での手続き
不動産所有者が死亡した場所がハワイであっても、当人が日本国籍を有している場合は、日本の法律が適用されます。
つまり、日本の相続法に則って、遺産分割協議書を作成し、名義変更を行うという流れになるのです。
ただし、遺産相続をする可能性がある人物が複数人いる場合、遺産分割協議書の作成で揉める可能性もあります。
そのため、弁護士などの専門家に相談して、手続きを進めていくのが一般的です。
ハワイ(アメリカ)での手続き
アメリカに資産を持つ人物が亡くなった場合、アメリカおよびハワイでは、プロベートと呼ばれる手続きが行われます。
日本人が亡くなった場合、プロベート手続きには、日本国外務省で認証を受けた英訳の戸籍等が必要になります。
その後、認証付きの戸籍等と相続証明を提出すると、裁判所でプロベートが進行することになります。
一つ注意すべきなのは、日本国内で名義変更の手続きが済んでも、現地ハワイでの手続きが終了しなければ、結果的に資産を処分することはできないという点です。
プロベートが完了して初めて、相続者は相続した資産を自由に扱うことができるようになります。
プロベートとは
プロベート(Probate)とは、日本語では「検認」と訳され、不動産の文脈では「遺産整理の手続き」を意味します。
本章では、不動産の所有者が亡くなった場合に必要となる、プロベートの仕組みについて解説していきます。
日本と米国の相続の違い
日本の場合、亡くなった人の財産は、その人が亡くなった時点で、自動的に相続人に引き継がれます。
相続人が複数人いる場合は、話し合いを設けて、財産の分割内容を確定します。
そして、最後は相続人が分配された財産の相続税申告を行うことになります。
一方、アメリカの相続手続きでは、原則として資産が自動的に相続人に引き継がれることがありません。
アメリカでは裁判所によるプロベート手続きによって相続人を確定し、負債を含めた金銭的な計算、アメリカの遺産税申告などを行います。
そのため、プロベート手続きには全体を通して1~2年かかるのが一般的です。
プロベートが必要となる相続のパターン
しかし、被相続人が出たら常にプロベートが行われるわけではありません。
プロベートが必要となるのは、以下の2つのパターンのときです。
単独で所有していた場合(単独所有権)
個人もしくは法人が単独名で持つ不動産だった場合です。
この場合は亡くなった所有者の遺言、もしくはトラスト(信託)に沿って、プロベート手続きの後に、遺産分割が行われることになります。
共同名で所有していた場合(共有不動産権)
不動産を連名で所有していた場合も、プロベート手続きが必要となります。
このようなケースでは、事前にそれぞれの人の所有割合を決めておく必要があります。
ただし、全員が同じ比率である必要はありません。
例えば、Aさんが30%、Bさんが30%、Cさんが40%の所有権を持っていたとします。
そしてAさんが死亡した場合、Aさんの分である30%分の所有権が、遺言、もしくは信託に沿って、プロベート手続き後に遺産として引き継がれることになります。
この場合、BさんとCさんには何の影響もなく、権利の売買等も自由に行うことができます。
プロベートが免除されるパターン
プロベートが免除されるのは、以下のような場合です。
夫婦で所有している場合(連帯不動産権)
ハワイ州においては、連帯不動産権は婚姻届を提出している夫婦にのみ認められています。
この所有方式では、夫と妻が50%ずつ権利を保持することになります。
また、双方が賛同した場合にしか、譲渡や売却ができない点にも注意が必要です。
このようなケースで配偶者のどちらかが亡くなった場合は、プロベート手続きを経ることなく、自動的に残された配偶者に引き継がれます。
複数人の個人で均等の所有権を有している場合(合有不動産権)
合有不動産権では、2人以上の複数の所有者が存在します。
前項の共同不動産権と異なるのは、全員が同じ比率で権利を持っていなければならないという点です。
例えば、5人で20%ずつ権利を所有していたとします。
そのうちの1人が死亡した場合、残りの4人で25%ずつの権利を所有していくことになります。
この場合にはプロベート手続きは行われません。
プロベートを避けるべき理由
プロベートを避けるべき最大の理由として、時間がかかりすぎる点が挙げられます。
プロベートが行われている期間は、資産が凍結されてしまうため、残された遺産を自分の好きなように活用することができません。
この他にもプロベートには、以下のようなデメリットがあります。
- プロベート裁判期間中は、資産が凍結され、自由にできない
- 資産がある州単位でプロベート裁判を行うため、時間がかかる
- 1~2年以上の時間がかかる
- 弁護士、裁判所、会計士などへ、多額の費用がかかる
このように、プロベートが行われると、相続手続きが煩雑になることは、間違いありません。
プロベート手続きにかかる費用は、数百万円に及ぶ場合もあります。
実は、本章で紹介した不動産所有携帯以外にも、プロベートを回避できる別の方法があるのです。
トラスト
アメリカには、死亡後の財産分与手続き方法として、遺言書以外に「トラスト」と呼ばれるものが存在します。
トラストを作成しておくと、プロベートを行う必要がなくなるため、面倒な手続きを避けたい方には、ぜひ作成することをおすすめします。
本章では、ハワイ不動産という文脈において、リビングトラストとは何なのか、どのように活用するのかを紹介していきます。
トラストとは
リビングトラストとは、日本語で「生前信託」を意味し、生前贈与の一種でもあります。
リビングトラストを短縮した「トラスト」も、リビングトラストと同義で用いられるのが一般的です。
トラストを作成しておくと、プロベート手続きを回避することができます。
トラストがある場合、被相続人が亡くなったときに持っている資産は、一度トラストの名義に変更されます。
その後、トラストの内容に従って、遺産が分配されます。
トラストが遺言書と異なるのは、トラストでは被相続人が亡くなった後、「財産人」という資産管理者を立てる点です。
財産管理人がトラストに沿って、被相続人の財産を管理するわけですから、裁判所によるプロベート手続きが不要になるわけです。
プロベートは時間もお金もかかり、遺産相続者にとって、大きな負担となり得ます。
弁護士費用や税理士費用など、場合によっては、数百万円という大金が必要となる可能性もあります。
面倒な手続きを避けるためにも、事前にトラストを作成するのがおすすめです。
トラストを作成する方法
トラストの作成にも、多少費用がかかります。
しかし、プロベートよりも少ない金額で済み、かつ時間がかかりません。
プロベートにかかる手続き費用が数百万円である一方、トラスト作成にかかる費用は、数十万円が相場です。
また、プロベートが行われると、資産を数年単位で凍結されてしまうため、自由に扱うことができなくなってしまいます。
相続人となる可能性がある人たちのためにも、トラストの準備を早めに進めておくと良いでしょう。
トラストの作成にあたっては、まず書類が必要となります。
この書類には、トラスト作成者の個人情報や資産情報などを、指定の書式に従って書き記します。
書き方には決まりがあるため、トラスト作成を行っている企業に依頼するのが一般的です。
次に、トラストの内容が正しいことを確認した上で、被相続人と公証人がトラストに署名をします。
これにより、作成したトラストが法的拘束力を持つようになります。
具体的には、資産の所有権が被相続人からトラストへと移されたことを意味し、被相続人が死亡した場合には、速やかにこのトラストに従って財産が分配されることになります。
法律や作成方法などは変化する可能性があるため、トラストを作成する際には、専門家の指示に従うようにしましょう。
トラストの内容は変更できる?
一度作成したトラストであっても、後から修正をすることは可能です。
一般的なトラストであれば、修正できる場合がほとんどです。
しかし、トラスト作成時には念のため、変更可能なトラスト(「Revocable Trust」)であるかどうかを、確認しておくと良いでしょう。
内容としては、財産人や相続人などを変更することができます。
トラストのメリット
トラストのメリットは以下の通りです。
プロベートを回避できる
トラストを作成する最大のメリットが、プロベートを回避できることです。
プロベートには数百万円単位の費用と、数年もの時間がかかります。
アメリカには日本のように戸籍謄本として、家族や親族が管理されていません。
そのため、トラストがなければ、被相続人との関係を確認するために、プロベート手続きが必要となってしまいます。
プロベート手続きが始まると、遺産の分配が遅れたり、専門家を雇う費用がかさんだりして、デメリットが目立ちます。
また、プロベートの判断による遺産分配が行われた場合、「誰に」あるいは「どのように」遺産を分配するのかは、裁判所が決定します。
被相続人として遺産を残したい相手がいるのであれば、トラストを作成して、指示通りに分配できるようにしておくと安心です。
プライバシーを守ることができる
同じく被相続人の死亡後のことを書き記した書類であっても、トラストと遺言書は、異なります。
主な違いの一つに、遺言書は裁判所に提出する必要があり、トラストはその必要がないという点が挙げられます。
裁判所に提出すると、その内容は公に出されることとなります。
そのため、遺産の内容や内訳等を第三者に知られてしまう可能性があるのです。
遺言書とトラストの作成手順は、類似しており、両方とも作成費用はかかります。
ただし、遺産分配におけるプライバシーを守りたい場合は、トラストがより最適だと言えるでしょう。
配偶者が遺産税の免除を受けられる
遺産を引き継いだ後には、連邦遺産税を納めることになります。
ただし、引き継いだ遺産を自分の資産と合算し、その資産合計金額が5,430,000ドル未満である場合は、納税する必要はありません。
また、さらに例外として、「夫婦間のトラスト」があります。
「ABトラスト」と呼ばれる夫婦間のトラストを作成していた場合、残された配偶者は、2回税金の免除を受けることができるのです。
例えば、夫婦両方が5,430,000ドルの資産を持っていて、ABトラストを作成している場合を考えてみましょう。
この場合、片方の配偶者が亡くなり、全ての遺産が生存配偶者に引き継がれた場合、生存配偶者の総資産額は、以下の通りになります。
5,430,000ドル(死亡した配偶者の遺産)+5,430,000ドル(生存配偶者の資産)=10,860,000ドル(総資産額)
総資産額10,860,000ドルは、遺産税免除額の5,430,000ドルを超えていますが、このケースでは無制限配属者控除によって、税金は免除されます。
夫婦間のトラストを作成している場合は、この条件が両方の配偶者に適用されます。
そのため、残された生存配偶者が亡くなった場合でも、総資産額10,860,000ドルまでは、遺産税を支払う義務がなくなります。
また、ABトラストを作成していなくても、1度目の遺産相続では、婚姻している夫婦に限って、無制限配偶者控除を受けることができます。
ただし、残された生存配偶者が死亡した場合には、遺産税の支払い義務が課せられてしまいます。
したがって、トラストを作成していれば、最初に配偶者が死亡した時と残された配偶者が死亡した時の両方、つまり全部で2度税金免除を受けられるということです。
一つ注意が必要なのは、遺産税の納付免除を受けても、ハワイ州に相続税申告書の提出をしなければならない点です。
納税の有無にかかわらず、相続税申告書類の提出については、州政府に確認するようにしましょう。
このように、トラストの作成をしておくことで、多額の税金免除を受けることができます。
婚姻している夫婦間には、無制限配偶者控除がありますが、双方が免除を受けるためには、トラストの作成が必要だということを覚えておきましょう。
最後に
不動産を所有する際には、ぜひ考えておきたい遺産問題。
残された人たちのためにも、できることから準備を進めておくことが大切です。
また、法律や手続きに関しては、時間とともに情報が変化するため、専門家の意見を聞くことが重要です。
日本とは異なるシステムだからこそ、早めに情報収集を開始し、必要な知識を頭に入れておくようにしましょう。